EPA(米国環境保護庁)は2022年7月24日付けで、「EPAは、5つのPFASに関する報告を要求する最終規則を発行します」と発表しました。この発表によると、「本日、2022年1月の発表のフォローアップとして、EPAは、報告要件の対象となる5つの追加PFASを特定するために、TRI(有害物質排出目録)を更新する最終規則を発行しています」とされ、また「2020会計年度の国防権限法(NDAA)は、毎年TRIにPFASを追加するための枠組みを提供します。本日の最終規則では、5種のPFASについて、TRIの連邦規則集(CFR)に正式に組み込まれています」と述べられています。
EPAは有害化学物質について、従来からTSCA(有害物質規制法)に従い、インベントリとフラグを用いて種々の規制を行っていますが、今回は5種類のPFASについては、米国の国防権限法(NDAA)に従い有害物質排出目録(TRI)化学物質リストに収載し、EPAがこれを管理・報告するとしています。
PFAS(Per- and PolyFluoroAlkyl Substances)は「パーフルオロアルキル化合物、ポリフルオロアルキル化合物及びこれらの塩類」の略称です。非常に持続性のある(難分解性)の化学物質群で、フッ素系またはポリフッ素系アルキル物質と呼ばれ、主にフッ素系の界面活性剤として70年以上の長きに渡って多くの用途に使用されてきました。約4,700種類あると言われ、中でもパーフルオロオクタン酸(PFOA)とパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS) 、パーフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)やパーフルオロ(2-メチル-3-オキサヘキサン) 酸(GenX)などが知られています(図1)。
PFOAは「パーフルオロオクタン酸(PFOA)とその塩及びPFOA関連物質」と定義され、2, 2, 3, 3, 4, 4, 5, 5, 6. 6. 7, 7, 8, 8,-ペンタデカフルオロオクタン酸(CAS RN 335-67-1)に代表される化学物質群で、ストックホルム条約において附属書A(製造・使用、輸出入の原則禁止)に収載されています。
また、PFOSはパーフルオロオクタンスルホン酸及びその塩でパーフルオロ(オクタン-1-スルホン酸)(CAS RN 1763-23-1)、カリウム=パーフルオロオクタン-1-スルホナート(CAS RN 2795-39-3) など複数の化学物質があり、PFOSF(パーフルオロ(オクタン-1-スルホニル)=フルオリド)(CAS NR 307-35-7)と共に、ストックホルム条約の附属書B(製造・使用、輸出入が特定の用途、目的に制限)に収載されています。
米国では2000年代初め頃にEPAが、「特定のPFAS含有化学品には、『残留性が高く、生体内に蓄積されやすい性質があり、毒性がある物質』」として分類しました。
米バイデン政権は2021年10月にPFASに関して規制を強化する方針を発表し、これを受けてEPAが2022年6月15日付けで「PFAS化学物質に関する新しい飲料水健康勧告」を公表しました。
#1 |
英名 |
・Perfluorobutane sulfonic acid
・1,1,2,2,3,3,4,4,4-nonafluorobutane-1-sulphonic acid |
和名 |
パーフルオロブタンスルホン酸 (略称:PFBS) |
CAS RN |
375-73-5 |
備考 |
・第22次REACH規則のSVHC候補物質で定義される物質の一例
・フッ素系界面活性剤で衣類、繊維、紙などの防汚材
・生体内における半減期はPFOA、PFOSと比べて短いが自然界においては大差なし |
#2 |
英名 |
・Perfluorobutanesulfonate |
和名 |
パーフルオロオロブタンスルホネート |
CAS RN |
45187-15-3 |
備考 |
・#01パーフルオロブタンスルホン酸がイオン化した状態。
・情報なし。 |
#3 |
英名 |
Potassium perfluorobutane sulfonate |
和名 |
パーオロブタンスルホン酸カリウム塩 |
CAS RN |
29420-49-3 |
備考 |
・化審法対象物質
・第22次REACH規則のSVHC候補物質で定義される物質の一例 |
#4 |
英名 |
2-Propenoic acid, 2-methyl-, hexadecyl ester, polymers with 2-hydroxyethyl methacrylate, γ-ω-perfluoro-C10-16-alkyl acrylate and stearyl methacrylate |
和名 |
2-プロペン酸、2-メチル-、ヘキサデシルエステル、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、γ-ω-パーフルオロ-C10-16-アルキルアクリレートおよびステアリルメタクリレートを含むポリマー |
CAS RN |
203743-03-7 |
備考 |
・PFOAの一種
・TSCAインベントリ収載、Flag:PM N(新規物質の製造前届出が開始された物質)、S (最終的に「重要な新規使用規則」(SNUR)で特定された物質。) |
#5 |
英名 |
Polymer of 3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,12,12,12-henicosafluorododecyl methacrylate / 3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-heptadecafluorodecyl methacrylate / methyl methacrylate / 3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,12,12,13,13,14,14,14-pentacosafluorotetradecyl methacrylate / 3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-tridecafluorooctyl methacrylate |
和名 |
3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,12,12,12-ヘンイコサフルオロドデシル=メタクリラート・3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-ヘプタデカフルオロデシル=メタクリラート・メチル=メタクリラート・3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,12,12,13,13,14,14,14-ペンタコサフルオロテトラデシル=メタクリラート3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチル=メタクリラート重合物 |
CAS RN |
65104-45-2 |
備考 |
・PFOAの一種
・TSCAインベントリ収載、Flag:S(最終的に「重要な新規使用規則」(SNUR)で特定された物質。) |
米国の連邦法は、主に国家の安全や諸外国との通商、著作権、破産などに関する法律ですが、有害化学物質に関しても国家の安全保障上の問題として捉えられ、特にPFASのような難分解性で生体蓄積性の高い物質で、軍の施設でも扱う物質に関しては「NDAA: National Defense Authorization Act (国防権限法)」下にあるTRI(Toxics Release Inventory、有害物質排出目録)化学物質リストに登録され、連邦の施設及び産業施設からの排出と汚染防止を目的としてデータ集計を行い、年度毎にEPAに報告されるシステムです。
TRIにリストされた化学物質は
PFASは、広義ではパッキン、ガスケット、Oリング、シール材など、バルブの部品として使用されるPTFEなどのフッ素樹脂やフッ素ゴム自身も含み、現在問題となっているPFOAが重合乳化剤などとして微量添加されるほか、これらの生成・成形過程において微量の副生成物が生成されるとも言われています。
現在、米国およびEUにおいて、PFASの規制濃度、規制範囲、規制方法、グルーピングなどの検討が行われており、最悪の場合にはフッ素樹脂やフッ素ゴムなどの製造・使用に影響が出る可能性がゼロとは言えない状況にあります。フッ素樹脂やフッ素ゴムなどの材料はバルブ産業だけではなく、非常に広範な分野で利用されていますので、多くの工業会などによるロビー活動も行われており、状況は流動的ですが、当面は使用量の多い、泡消火剤の規制を急ぎ、順次規制範囲を拡大して行く方向のようですが、エッセンシャルユース(必要不可欠な用途)が認められる場合については、適用除外が設けられる方向のようです。本コラムにおいて、引き続き情報を収集し報告して行きたいと思います。
(1)EPA(米国環境保護庁)は2022年7月24日付で、5種類のPFAS(パーフルオロアルキル物質およびポリフルオロアルキル化合物群の略称。PFOS、PFOA、PFHxSやGenXなど数千種類の合成フッ素有機化合物群)について、国防権限法(NDAA)に従い、TRI(有害物質排出目録)化学物質リストに収載し、EPAが管理、報告すると公表した。
(4)PFASは、各国において規制強化の方向にあり、広義にはフッ素樹脂やフッ素ゴム自身も含まれ、また一部のフッ素樹脂やフッ素ゴムの製造時に現在問題になっているPFOAの添加、ないしは副生成物として生成される可能性があると言われている。特にバルブの重要部品であるパッキン、ガスケット、Oリング、シール材などの製造、使用に影響が出る可能性がゼロとは言えない流動的な状況にあるので、今後の規制状況を注視して行く必要がある。